第7回〜決算書〜

1級ファイナンシャルプランニング技能士

CFP認定者

吉 川 幸 男


今回は決算書についてご説明することになるのですが、その前にもう一度簿記の目的について復習しておきたいと思います。

第1回「簿記の目的と作業の流れ」でご説明したように簿記の目的は、貸借対照表や損益計算書を作成し、その企業の財政状態や経営成績を知ることです。


財政状態や経営成績を知ることによって

    この企業に出資していても大丈夫か?

    この企業と取引しても大丈夫か?

    この企業にお金を貸しても大丈夫か?

    この企業で働いていても大丈夫か?

                ということが判断できます。


こうした判断を下す人たちを「利害関係者」と呼びます。


さて、財政状態とか経営成績という言葉が何度も出てきましたので、少しご説明したいと思います。

貸借対照表があらわすもの−財政状態

財政状態は貸借対照表によって表されます。財政状態とは、簡単に言うと、その企業に資産がいくらあって、負債がいくらあるかということです。

したがって貸借対照表は、資産・負債・資本によって構成されています。

ただ、単純に資産と負債を比べるだけでは充分ではありません。


例えば、すぐ使えるお金がいくらあるのか、すぐにお金に替わる資産はどれだけあるのか、経営活動を通じてお金を生む資産はどのくらいあるのか、反対にすぐ返さないといけないお金がいくらあるのか、一定の利息を払っていれば長期にわたって借りることのできるお金がいくらあるのかなどが、わからなければなりません。

こうしたことをふまえて貸借対照表では資産・負債・資本をさらに細かく分けます。


資産及び負債を細かく分けるための基準として次のものをあげることができます。

1.一年以内(の現金化又は、返済)

一年以内に現金化される資産を流動資産、されない資産を固定資産と呼びます。

また、一年以内に返済される負債を流動負債、返済されない負債を固定負債と呼びます。

この基準を一年基準(ワンイヤールール)と呼びます。

2.営業活動の流れとの関係

資産が流動資産に、負債が流動負債に属するかどうかの判断基準として、一年基準の他に営業循環基準という基準があります。

これは、通常の営業活動の流れに属する項目(売掛金・買掛金など)は現金化や返済するまでの期間の長短に関係なく流動資産や流動負債に属するというものです。

ただし、この基準で流動資産や流動負債に属する項目は、よほど異常なことがない限り一年以内に現金化もしくは返済が行われます。


資産については、流動資産と固定資産の他に繰延資産という項目もあります。

この項目は、本来なら費用とすべきもののうち、企業の経営に将来にわたって影響を与えるような項目を一定の期間、資産としておくものです。


また流動資産や固定資産はさらに細かく分類されますが、詳しい説明は、別の機会に譲りたいと思います。


ところでこの様な細かい分類がなぜ必要なのでしょうか?

それは、企業の「財政状態」をより把握しやすくするためなんです。

例えば、「すぐに返さなくてはいけないお金に対してどの程度の準備ができているか」ということを見るうえでこうした分類がしてあるとわかりやすいと思いませんか?


この様に貸借対照表は「財政状態」をより効率的に把握できるように工夫されているのです。

損益計算書があらわすもの−経営成績

経営成績とは、簡単に言うと、その企業がいくら儲かったか、またいくら損をしたかということです。

ところでみなさんは、利益の計算をするにあたってどのような計算をしますか?

入ったお金から出ていったお金を差し引く方法が、一般的な方法だと思いますがいかがでしょう?


ところが、入ってきたお金の中には、負債のようにいずれは返さなければならないお金や、資本のように元手として企業の基本になるお金があります。

また、でていくお金の中には、資産のように、長い時間をかけて経営に貢献していくものもあります。

こうした項目は利益の計算から除外しなければいけません。


さて、ここまで読まれて何か気づかれませんか?


第3回「借方と貸方、そして勘定科目」の回を思い出して下さい。

勘定科目を大きく5つの項目に分けましたが、覚えていますか?

資産、負債、資本、収益、費用の5項目に分けましたよね。

利益を計算するに当たって、資産、負債、資本は、除外したいのです。

したがって、損益計算書は収益と費用から構成されることになります。

そして、利益を計算するための式は次のようになります。


 利  益 = 収  益 − 費  用


さらに損益計算書は貸借対照表と同じように区分して作成されます。


1.売上(収益のうち、その企業の主となる営業活動から得られる収益)から売上原価(売上に直接対応する原価)を差し引いて売上総利益(一般に粗利と呼ばれるもの)を出す。

2.売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いて営業利益(本来の営業活動を通じてでた利益)を出す。

3.営業利益に営業外収益を加え営業外費用を差し引いて経常利益(金利など営業活動と直接関係ない項目のうち異常な数値を除いたものを加減した利益)を出す。

4.経常利益に特別利益を加え特別損失を差し引いて税引前当期利益(異常な項目、前年以前の訂正等を加減した利益)を出す。

5.税引前当期利益から法人税等を差し引いて当期利益を出す。


という風に一つの損益計算書の中にいろんな利益を計算するんです。

もう一つの利益の計算方法

先ほど紹介した「利益=収益−費用」という計算方法は「損益法による利益の計算方法」と呼ばれるものです。

利益の計算方法にはもう一つ別の方法があります。

「財産法による利益の計算方法」と呼ばれるものです。


「財産法による利益の計算方法」と聞いてカンの良い方だと『貸借対照表に関係ある計算方法かな?』なんて思っていらっしゃる方も、みえるんじゃないかと思うんです。

そんな方は、なかなかいい線いっています。


第5回「元帳と試算表」の回を思い出してください。試算表等式なるものをご紹介したのを覚えていらっしゃいますか?

そう、こんな式です。


  資 産 + 費 用 = 負 債 +(期首)資本 + 収 益


この式の資本の頭に(期首)というのが付いているんですが、みなさん気づかれましたか?

じつは、この(期首)が「財産法による利益の計算方法」のミソなんです。


 『え〜なんのこと?』


悲鳴が聞こえてきそうですが、まあまあ、落ちついて、落ちついて!

「財産法による利益の計算方法」とは、こんな計算方法なんです。


  利  益 = 期末資本 − 期首資本


つまり、期首の資本と期末の資本を比べて、期末の方が多ければその期は利益が出ている、反対に期首の資本が多ければその期は損失を出しているという計算をする、これが「財産法による利益の計算方法」です。


さて、貸借対照表と損益計算書の大まかな構造と利益の計算方法についてざっとご説明しましたがご理解いただけたでしょうか?


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© 2006 Yukio Yoshikawa